広島市中区大手町の産婦人科|女性クリニック ラポール

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漢方患者弁証論治(更年期)

漢方コラム 掲載にあたって

 

 漢方の投薬は、あくまでも 弁証論治 (べんしょうろんち) が重要だと思っています。

 

弁証 とは 診断、

論治 とは 治療ですが、

西洋医学と漢方医学の診断法は少し異なっていて、

たとえば更年期障害の症状を訴えてこられた患者さんをみて、

年齢と閉経の有無だけをみて、診断を決めるのが西洋医学。ですが

一方

漢方医学では、さらに加えて、月経の出かたをお聞きしたり、その人の体質を含めた背景を探って診断します。

 

治療は、西洋医学の治療なら女性ホルモン剤のほぼ一択

漢方医学の治療なら、その人と症状に合わせて漢方薬を組みあわせて 差し上げます。

 

更年期症状を訴えて今年こられた 7名の 更年期世代の患者さんのエピソードと治療法をご案内いたします。

 

 

51歳のYKさん。

まさに更年期世代(注釈:更年期世代とは閉経の平均が50.5歳ですが、前後5年をいれた10年間を指します)。月経は2カ月に1回だが来ている。いつもイライラしている。耳鳴りと耳が詰まった感じがして耳鼻科を受診したら更年期障害かもしれないから婦人科に行きなさいと言われた。ストレスが強く眠りが浅いと言われる。更年期特有のほてりや汗はほとんどないとのことで、超音波検査では卵巣内に卵胞が見えて(つまり女性ホルモンは十分かどうかは別にして、出ている感じ)いる。加味逍遙散を処方して落ち着いた。しばらく1年くらいこのままでよかったが急に、動悸や息苦しさが出現しまた眠れなくなった。職場も休んでいる。診ると体がこわばっており腹式呼吸ができずからだもむくんでした。なぜか最近血圧が自宅でも150を超える。四診(漢方的診察で、脈やべろ、おなかを触っての診察法)で強いお血と診断。桂枝茯苓丸を加えて飲んだら、血圧が安定し、体のこわばりがとれ職場にも無事に復帰できた。

 

 

54歳のMIさん。

更年期症状を疑い受診された。主な症状は、頭痛と肩こり、片田のこわばりだった。からだもだるいといわれる。10年以上前に子宮を手術でとっている。乳がん検診が要フォローとなっているのでホルモン剤は飲みたくない(女性ホルモン剤は乳がんの発生率をわずかですが高めます)と言われた。四診で瘀血と強い気滞と診断して、大柴胡湯と桂枝茯苓丸を飲んでもらった。1週間飲んだら便通がすっきりしてこわばりがすっかり取れた。自分は胃と腸が悪かったのだと思ったとのこと。

 

 

51歳のAMさん。

月経は半年前が最後だが、最近不順である。手足のしびれとめまいが気になって受診。めまいは、寝転がった時と起きあがった時に起こりやすい。超音波検査では卵胞がありホルモン活動はありそう。血圧は少し高めで、脈も早め。舌を診ると辺縁が真っ赤になっている。肌は全体的に汗ばんでおり下腿はむくんでいる。下腿も汗ばんでいた。

ストレス強くないですか?と聞いたが心当たりはないとのこと。気滞と水毒と診断し、加味逍遙散と五苓散を処方し、2週間で楽になったといわれた。

 

 

51歳 TYさん。

1カ月前からの動悸と腰痛、膝関節痛で来院されました。少し小柄な方で生理はほぼ順調でした。お話をお聞きすると更年期というよりも月経前にすべての症状が起こる様でしたので月経前症候群であるかも知れないとのお話をしました。また、超音波検査でも卵巣に卵胞がみられ、更年期ではないのでは?と思われました。脈を診ると尺*の部位はしっかり触れたためこれも加齢を否定する結果でした。一方脈の関*の部位は按ずると触れにくくなり、この方は漢方でいう 脾 と 肝 に異常があると考えられました。舌も診ましたが、舌色は淡白から淡紅で、滑 の状態であり、また冷え性もあるため脾虚が疑われましたので処方は附子理中湯と加味逍遙散を処方しました。

*漢方では被検者の脈を診るときに左右の手を検者の指3本で取ります。その脈位を、手前から 寸 関 尺 と言います。

 

 

48歳のKKさん。

耳の不調があり耳鼻科に通院中ですが、女性ホルモンの影響があるかと思いラポールを受診されました。月経は不順で体格はやや大きい方でした。からだがむくんでおり、心窩に痞え感があり振水音も聞こえました。またおなかを壊しやすいく元々何べんだそうです。腹診で 章門 と 京門 に圧痛がありました。腰痛も訴えており、腎虚 脾虚と診断し八味丸と六君子湯を処方しました。内服後2.3日で体調は良くなりましたが、ストレスがあると少し調子が悪くなるようでした。

 

 

49歳 BSさん。

胸が苦しいが、内科的問題はないとすでに診断されている。他院で更年期障害と言われて、胎盤エキス製剤を皮下に注射してもらっている。注射を始めてもう4カ月が経つが、当初より少し楽なもののまだ苦しい。しかも週に2回注射しているが、注射の痕が青地になって醜い。何か良い方法がないかと相談がありました。胸が苦しいのは、食事の後が著しい。生理は順調です、と言われる。いつものように超音波検査と血中の女性ホルモン値の測定を行いました。卵胞はあり、ホルモン値もまだ更年期状態を示唆していませんでした。そこで弁証をとると、この方は気滞、瘀血、腎陰虚がありましたので、加味逍遙散と六味地黄丸を処方したところ、まず1週間でだいぶ調子が良くなりさらに1週間の内服でほとんど症状が出なくなりました。この方のベロ(舌)には、裂紋*があり苔はなく紅い色でした。

*裂紋とは漢方でいう津液不足です。陰虚の症状の一つとされ、この方はほかに肌の乾燥や口渇、耳鳴りなどがあり腎陰虚を示しておられました。

 

 

49歳 TFさん。

最終月経が昨年の10月でした。肩こりとめまい、それと特定の原因はないけれど不安感があるとのこと。年齢的にも月経が止まっていることからも、更年期症状の可能性は高かったのですが、ホルモン剤は使用したくない、自分で市販の桂枝茯苓丸*を飲んでいる、漢方でよいものはないか?ということでした。この方のベロ(舌)は淡い色でしたが、苔はありませんでした。先端のみが紅く心血の異常が考えられましたが、主には脾胃が弱いという印象でした。問診を進めると、食欲がないことやおなかが痛いこと、軟便であることがわかりました。四君子湯と加味逍遙散を10日間処方しましたが、この10日間で食欲が改善し、腹痛がなくなり鬱っぽかった症状が取れて非常に喜んでおられました。

*桂枝茯苓丸 は更年期にかかわらず女性によく使用される駆瘀血剤(瘀血を取り除く薬)です。シナモンの成分が入っており、シナモンに弱い方はアレルギーを起こすことがありますが、漢方薬で副作用を比較的起こしやすいとされる甘草を含んでいないため使いやすいお薬です。